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【解体新書①】ポスターからロマンス衣装まで陰陽でみる『還魂』

ホン姉妹の脚本は、いつも見返したい衝動にかられるも、新作に追われて過ぎゆくことが多かったのですが、ホン姉妹史上最高傑作に思えた「還魂」は、見返さずにはいられませんでした。

それくらい、いつも以上に緻密に計算された細やさが詰まったストーリーで、陰陽関係が垣間見える東洋ファンタジーならではのシーンが多かったのも、病みつきになる理由のひとつでした。

陰陽説とは

万物をふたつの性質にわける

宇宙に存在するすべてのものは「陰」と「陽」のふたつの属性にわけられるという中国哲学。

東洋医学でよくみられる「陰陽太極図」は、まさに陰陽関係をあらわしたシンボルマーク。

右側の黒色は下降する気を表した「陰」、左側の白色は上昇する気をあらわした「陽」。

暗く静的な「陰」に対し、明るく動的な「陽」。

一方の勢いが強くなれば、もう一方は弱まるというように、双方でバランスをとり合いながら均衡は保たれているため、明るく動的な「陽」だけをよしとするのではなく、「陰」があるからこそ「陽」があり、「陽」あるから「陰」があるように、どちらも欠くことができない存在という考え方です。

  • 静的

  • 太陽
  • 動的

比べる対象で関係が変化

「陰」と「陽」は相反するように思えますが、「陰陽太極図」の勾玉の中の点があらわすように、「陰」の中には「陽」が、「陽」の中にも「陰」があります。

陰陽の強さは常に変動していて、いくら「陽」が強くても極まれば「陰」に転じ、反対に「陰」が「陽」に転ずることもあり、この変化は絶えず繰り返されています。

例えば、ウクとムドクにおける陰陽関係。

  • 女(ムドク)
  • 侍女(ムドク)
  • 弟子(ウク)
  • 子(ウク)

  • 男(ウク)
  • 主人(ウク)
  • 師匠(ムドク)
  • 親(ガン)

男性やご主人様の立場で比べるとウクは「陽」ですが、弟子とみた場合「陰」へと転じます。

また、父チャン・ガンとの親子関係でみても、息子であるウクはやはり「陰」となります。

このように、どんなものも陰陽ふたつの要素を含み、比べる対象によっても陰陽の関係は変化します。

ウクとムドクを見ているだけでも、時と場合によって、絶え間なく反転し続ける陰陽関係。

魂と身体のバランスで良し悪しが決まる、還魂術もまた陰陽関係の象徴。

「還魂」における陰陽関係

  • ヨン(影)
  • シーズン2
  • 青の陰陽玉
  • シックな衣装
  • ローテンポ
  • 精神的(魂)

  • ウク(煌)
  • シーズン1
  • 赤の陰陽玉
  • 華やかな衣装
  • ハイテンポ
  • 身体的(修練)

主人公

全体とシーズンとで陰陽関係が変わっていたと思われる主人公。

 
全体ヨンウク
シーズン1ムドクウク
シーズン2ウクブヨン

物語の主人公は、チャン・ウク(煌)とチョ・ヨン(影)。

父親が親友同士のふたりですが、生まれた時から名前自体がすでに陰陽関係。

足りない部分を補い合いながら、一心同体で試練を乗り越えていくふたり。

ヨンは父の死後、ナクス、ムドク、ブヨンと4つの名前を持つことになりますが、ウクとの婚姻は本来の姿ヨンとして結べたことは、何よりも喜ばしいことでした。

衣装とテンポ

陽:ハイテンポで華やかなシーズン1
陰:ローテンポでシックなシーズン2

華やかな衣装で、初々しくも躍動感にあふれ、男性主人公ウクの修練を中心に、生い立ちがテンポよく明かされていくシーズン1。

シーズン2は、皆が良くも悪くもさまざまな経験を積み、少し落ち着き払う中、突如あらわれる天真爛漫な女性主人公ブヨンがメインに。

精神的な魂のつながりを中心に描かれ、全体的に衣装もシックに、テンポもゆったりと展開。

ウクの衣装もモノトーンになったことで、よりブヨンが瑞々しく輝いて見えました。

これまでの伏線をローテンポで丁寧に回収できたことで、とてもわかりやすく満足度の高いラストとなりました。

ロマンス

陽:ウクメインのシーズン1
陰:ブヨンメインのシーズン2

ご主人様、弟子、男として、いろんな立場から愛するウクのムドク推しが強いシーズン1に対し、これまで抑えていた思いが爆発したかのように、記憶を失いながらも爛漫に、ウクに惹かれていくブヨンが愛くるしいシーズン2。

ブヨンの記憶がないことで、ふたりの運命の絆がより鮮明に打ち出されるかたちに。

陰陽玉

陽:男性のウクが赤色
陰:女性のムドク/ブヨンが青色

ウクが赤色の陰陽玉を選んだことに疑問を抱く人もいるかもしれませんが、陰陽説で解くと男性のウクが赤色を持つのは、ごく自然なこと。

「陰陽太極図」は白と黒ですが、「陰陽」と「太極」あらわす韓国の国旗「太極旗」は赤と青。

「還魂」まさに大韓民国を象徴するドラマといった感じ。

陰陽玉が威力を発揮するのはシーズン2でしたが、シーズン1ではウクと世子で、陰陽玉の秘密を披露するあたりも心憎い。

陽:ナクスの白柄の剣
陰:ウクの黒柄の剣

シーズン1でウクが使用していたのは天附官官主である父チャン・ガンの黒柄の宝剣。

シーズン1では、官主継承権が略奪されたことで、チャン・ガンの宝剣もウクの手から離れることになりましたが、その後氷の石で生き返ったウクが、シーズン2で使い続けたのはナクスの剣。

物語全体ではウクが「陽」ですが、シーズン2においては朗らかであたたかみのあるブヨンが「陽」、ナクスを失い冷たく死んだように生きるウクが「陰」の関係に変化。

ムドク(陰)あってのウク(陽)のバランスが崩れ、氷の石の力もあってウクの天の気が極まったことにより、一気に「陰」に転じたのかと。

心だけでなく体も冷え切るウクを、心身ともに癒した神女ブヨンの「陽」の気は、本当にあたたかかった。

そんなムドクを失い「陰」と化したウクの黒装束に映えるナクスの白い剣は、まさに「陽」。

ただの恋しさから使い続けているというだけではなく、ムドク亡き後も一心同体でウクの正気を保つために不可欠だったナクスの剣。

ナクスの死後、天附官、チャン家、松林と巡り巡っていたナクスの剣ですが、剣のありかで勃発する事件も物語の重要なポイントでした。

指輪

陽:ムドク/ブヨンの左手
陰:ウクの右手

ふたりの愛の象徴でもあったかたちのない指輪。

通常、左手薬指にはめ合う結婚指輪ですが、ウクとムドクは向かい合い左手と右手の指を絡めるスタイル。

このかたちのない指輪が生まれた経緯も面白いのですが、高価な指輪よりも手をつなぐだけで相手がわかるって、ただロマンチックなだけではない、現実でも重要なこと。

実際、劇中でもふたりの記憶を取り戻すきっかけになっていました。

ポスター

引用元:tvNより

ウクの位置が上下反転する相反するふたつのシーズンポスター。

ウクに隠れるようなムドクと、ウクを包み込むようなブヨンの描写は、まさにシーズンごとに異なる主人公の陰陽をあらわしたよう。

剣の件の続きにもなりますが、当初は「剣の柄色までも陰陽関係で細部までよくできていて心憎い」くらいにしか思っていなかったのですが、シーズン1ポスターは実は「ナクスの剣を操れるようになることでウクが完全体となる」ウクの修練のゴールを示していたのかも。

どちらのシーズンポスターも、ふたりでひとつの完全融合をあらわす「陰陽太極図」のオマージュのようであり、さらにふたつのポスターを並べてみると、ふたつでひとつのオマージュのようにもみえます。

引用元:tvNより

そしてシーズン1ポスターにもつながる、ウクとブヨン、白柄と黒鞘のナクスの剣による完全調和のラストオマージュ。

まとめ

本来の意図はどうであれ、陰陽でも楽しめた「還魂」。

男女が陰陽関係にあるため、どんなロマンスにも陰陽説はあてはまりますが、「還魂」には特に意識せずにはいられないシーンが、たくさんありました。

これまでにないシーズンものだったのも、シーズンそのものを陰陽関係にする必要があり、それぞれヒロイン交代に視聴不安はあったものの、全く別物として楽しめたのは、その計らいゆえだったように思えます。

ウクの気が弱まればムドクが叱咤し、ブヨンの想いが強まれば素直に受け入れるウク。

ウクの陰に隠れ守られるムドクと、温かくウクを包み込むブヨン。

主人と侍女、師匠と弟子、男と女を自在に行き来する、台詞とティキタカも素晴らしく、これまでにない相対関係を、陰陽と絡めながら見事に描ききった、本当によくできた東洋ファンタジーロマンス。

改めて、ホン姉妹すごし。

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