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【解体新書③】なぜ金魚ではなく闘魚だったのか『夏花』

ランの一方的な恋にはじまったように見せて、実は同じようにシアオ・ハンもまた始終ランを思い続けていた「夏花」。

運命という言葉ではなく、金魚、猫、ガーベラ、優曇華などからも、ふたりの心情が読み取れる心憎い演出がいっぱい。

ガーベラ については前述しましたが、終盤に彗星のごとく、いきなりあらわれたベタ。

ランのような病気のベタを慈しむように飼い始めるシアオ・ハン。

優しいシアオ・ハンの象徴でもあり、今思えば今後の展開の予兆だったともいえますが、なぜベタなのかという疑問が拭いきれず、あまりにも気になったので、私なりの解釈をまとめてみました。

ランの未来を暗示する金魚とベタ

シアオ・ハンに似てるといわれてランが買ってきた金魚は、ラン自らランランと名付けただけに、ランの薄命を予感させました。

22話で登場するベタも、今後ランの病気を知り、傍でお世話することを決意するシアオ・ハンの未来と重なります。

金魚の死は、ランの未来とは重なりませんでしたが、その後ランと何度と別れを繰り返す間も、情が移ると否定したのに、金魚を飼い続けていたシアオ・ハン。

見た目というより、ガーベラの花言葉のごとく自由に遊泳する姿が、ランに似ているからでしょうか。

そんな、金魚とセットだったのが、シアオ・ハンの家猫ともいえるザオザオ。

中国語の発音が、70歳を意味する「耄(もう)」と似ている猫と、お金があまる意味の「金余」と似ている金魚は、それぞれ長寿や金運の象徴で、どちらも中国ではめでたいもの。

ザオザオやランの身代わりのように思えた金魚たちは、実は幸せなふたりの未来を暗示していたのかもしれません。

なぜ金魚ではなくベタなのか

ならば、最後までベタではなく、病気の金魚を世話する設定でも良かったのではないかという疑問は拭いきれず。

ベタとは

ベタは、和名で闘魚。

オスは縄張り意識が強く、混泳が難しため、同じ水槽で2匹飼うのはタブーとされる魚。

闘争心むき出しのフレアミングという威嚇行動で、ヒレの美しさを鑑賞して楽しむ。

繁殖目的であっても、オスが執拗にメスを追いかけるため、よほど相性がよくないと傷つけてしまうらしい。

なんでこの終盤に、気性の荒いベタが今さらのように登場するのか。

しかし、最終話ではっとさせられました。

基本的に最終話以外は、オープニングやエンディング、予告も飛ばして視聴するスタイル。

しかしそれが仇となり、ベタの重要性に気付いていなかった愚か者な私。

オープニングや2匹のベタが優雅に泳ぐエンドロールを観て(ゆえにエピローグにも気付けましたが…)、大切なものを見落としていたのかもと。

実は、初話からずっと二人の未来は暗示されていた?

青いベタはまさにシアオ・ハンそのもの

やはり金魚には、自由奔放に別れと再会を繰り返すランを重ねていたように思います。

ゆえに、ランの押しが強く展開している間は、自由に泳ぎ回る金魚。

シアオ・ハンの想いが表面化した終盤はベタ。

ランを大学近くまで追いかける姿は、まさにメスをも執拗に追いかけるベタそのもの。

魚を使って、ふたりの想いを表現するあたりが、本当にウォン・カーウァイっぽい。

2匹の木彫り猫

ベタが登場するまでは、シアオ・ハンの想いは2匹の木彫り猫に込められていました。

私がはじめて意識したのは、シアオ・ハンの故郷に会いに行ったランの道しるべになっていた時でしたが、実は初話から登場しています。

ラン邸の庭園作業の合間に、嬉しそうに木彫りをするシアオ・ハンの姿。

既にランに一目惚れしていたはずなので、過去の傷を抱えながら生きるシアオ・ハンにとっては、夢のような日々のはじまりだったことでしょう。

ラン邸の庭師として紹介したのもハン叔父さんでしょうから、やはり彼はキューピッドとしか思えない。

立ち猫を追いかけるように背伸びするもう一匹の猫

どちらがラン、シアオ・ハンなのか、ずっと疑問だったのですが、シアオ・ハンが電話で最後の別れを告げた時に、背伸び猫がそっぽを向けたことで、こっちがシアオ・ハンだと確信しました。

ランと追いかけるシアオ・ハンが投影されているのだと。

振り返ってみれば、初話で嬉しそうにまず彫っていたのは、立ち猫のほうだったので、ここで気付くべきでしたが。

実はこの木彫りの猫、ランがシアオ・ハンと運転練習する約束をした元カノの命日にも登場しています。

チン・ザオに嫌味をいわれ、半信半疑のランを車で待っていたシアオ・ハンが、ランに投げ渡すのが木彫りの立ち猫

ランはあーだこーだ言いながら、シアオ・ハンの胸ポケットにさりげなくしまい込むのですが、この時もどっちなんだろうと思っていました。

早朝に命日のお参りをしてきたであろうシアオ・ハン。

もしかしたら、立ち猫(ラン)も一緒に、連れて行ったのかもしれないし、ランがいない日常も持ち歩いていたのかもしれません。

今思うとこの木彫りの猫も長寿の象徴で、ずっとランへの想いを募らせながら、幸せに暮らす未来のふたりの姿だったとも捉えられますね。

  • 1話:幸せそうに木彫りするシアオ・ハン
  • 12話:シアオ・ハンの故郷で
  • 16話:チン・ルイの命日に
  • 20話:ランとの別れ

まとめ

ランの恋愛物語と思いきや、しっかり水面下ではシアオ・ハンの恋心も展開していて、終盤ではベタを通して表面化。

ラストの仲良く混泳するベタは、ふたりの相性のよさの証なのでしょう。

さりげない日常に意味を持たせ、観返すほどに深くて、伏線回収に唸らずにはいられない。

官能シーンばかり話題となりますが、改めて完成度の高い作品だと思い知らされます。

画像は豆瓣电影より

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