2026年5月、WOWOWに日本上陸したことで、きちんとした日本語訳で再視聴できた中国ドラマ「十二通の手紙(2025)」。
主カップルである周翊然(以下イーラン)と王影璐(以下インルー)の演技は素晴らしいのに、やはり私には泣けるほどではなく…
そして、やっぱり岩井俊二監督の映画「Love Letter(1995)」のオマージュだなと。
新たな発見もあったので、感想と共に改めて「Love Letter」との類似点をまとめてみました。
一周目の感想はこちら↓
ありえない手紙からはじまる物語
ファンタジーか否かの違いはあれど、共通しているのは、現在と過去未来が交錯して展開するという点。
謎の差出人がクラスメイトというのも同じですね。
ありえない手紙からはじまる奇妙な文通物語。
過酷な家庭環境に嫌気がさす葉海棠(王影璐)、バイト先の書店横に突如あらわれた、古ぼけた大きな赤いポスト。
機能していないはずのポストの中には、なぜか同じクラスの唐亦尋(周翊然)からのラブレターが。
唐亦尋は、書いた憶えはないと主張するが、実は2026年から届いた手紙だった。
亡き天国の恋人が忘れられない渡辺博子(中山美穂)は、彼の卒業アルバムにあった中学時代の住所に手紙を出す。
今はないはずの住所から、信じられない返事が返ってくる。
差出人は、当時彼と同じクラスだった同姓同名の女性、藤井樹(中山美穂/酒井美紀)からだった。
謎の老人
どちらも序盤から、物語の鍵を握ると思われる謎の老人が登場。

認知症の症状が出始めた余念(鄭合惠子)の父。
古ぼけた赤いポストのある造船所で、謎の手紙を残して失踪してしまう。
実は認知症のふりをしているだけなのでは…とか、いろいろ勘ぐってしまう存在でした。
頑固者で家族に煙たがられているような藤井樹(酒井美紀/中山美穂)の祖父。
演じたのは「クマさん」こと芸術家の篠原勝之さん。
含みのあるミステリアスな老人でしたが、ラストはまさかの感動エピソード。
文面に嫉妬する男主
得体の知れない返信相手に嫉妬する男たち。
未来から届く手紙に記されている、阿棠の息子の姓が『沈』であることに嫉妬する阿尋。
子供の父親が自分ではないのか…
妄想激しく暴走していくイーランがたまらない11話の名場面のひとつ。
博子の亡き恋人の藤井樹とは、親友だった秋葉(豊川悦司)。
博子に恋心を抱いているゆえ、まさかの藤井樹からの返信にも、生きているはずがないと完全否定する。
ちょっと棘のある言い方の秋葉が印象的。
光と音楽を駆使した映像美
岩井俊二作品といえば、光と音楽を融合させた独自の叙情的な世界観。
逆光や自然の光を生かしたの名シーンがいっぱいの「Love Letter」。
パッと頭に浮かぶのだけでも
- 図書室の窓辺の風に揺れるカーテン
- 答案用紙を照らす自転車のダイナモライト
- 夜明けの雪原のブルーモーメント など
挙げたらきりがないし、今はこういう光の演出も珍しくもなくなってきましたが…
「十二通の手紙」もまた細やかな心情を、台詞なしで光と音楽で奏でるシーンが、随所に散りばめられていました。
特に印象的だったのは室内の光シーン。
特にお気に入りの4話名場面のひとつ、傷の手当てしてくれる阿棠を、阿尋がじっと見つめるシーン。
イーランの内面演技を最大限に生かす、絶妙な光とカメラワーク、そして静かな音楽。
まっすぐな阿尋を、空間が演出してくれる心地よさ。
ちなみに、一番印象的な「春暖花开去见你」はオリジナルではなく、福禄寿というインディーズバンドの代表曲なんですね。
三つ子の姉妹バンドだったみたいで、不祥事で次女が脱退。
その後2人体制で新ユニットを再結成したのがDOUDOU。
つまり、DOUDOUヴァージョンは、セルフカヴァーなんですね。
どこか不安定な秋葉の心情を映し出す、ガラス工房の炎の揺らめき。
まっすぐな阿尋と揺れる秋葉。
相反するようで叙情的な映像美は一緒なんですよね。
透明感のあるピアノの旋律も心地よい。
想い人に向けた魂の叫び
ここからは再視聴したことで新たに感じたこと。
愛する人に呼び掛けるシーン。
希望に満ちた阿棠の呼びかけと、悲痛にも感じる博子の絶叫。
「生者と死者」に向けてという点でも相反する魂の叫び。
阿棠の「阿尋」の呼びかけに、「我在」と応える阿尋。
幸せいっぱいの阿棠がとにかく愛くるしい。
大好きな7話の名シーンですが、「Love Letter」のあの名シーンと重なりました。
恋人が遭難死した山に向かって叫ぶ、博子の名台詞「お元気ですかー」。
恋人の名前こそ呼んではいないけれど、阿棠の「阿尋」と同じ熱量を感じる叫び。
阿棠と異なり、いろんな感情が複雑に絡み合う、博子の叫びはせつない。
過去をリセットさせる雪原
「Love Letter」といえば、博子が恋人が遭難した雪山に向かって叫ぶ雪原シーン。
前項と重複するけれど、この雪原シーンも「理想と現実」が相反してるんですよね。
余志勇こと阿尋の回想のように描かれる11話ラストの雪原。
雪原で阿棠と一緒に見上げていたのは、オーロラだったのか…
過去のつらい思い出をリセットする理想郷のような情景。
音楽が彩り温かみある「十二通の手紙」の理想郷とは異なり、亡き恋人の過去を知った博子の爆発と、未練を断ち切ろうとする心情が、痛いほどに伝わる明け方の凛とした空気と静寂。
公開と日本上陸
「Love Letter」は、岩井俊二監督の長編映画デビュー作として、1995年に公開。
「十二封信」が公開された2025年は、公開30周年を記念して4Kリマスター版が劇場上映。
中国でも同じ年の5月20日「網絡情人節」(ネット・バレンタインデー)に、リバイバル上映されてたみたいで驚き。

「Love Letter」公開30周年の2025年に、「十二封信」も公開されるという奇跡。
そして、35年の時を経て文通する「十二封信」をWOWOW35周年の2026年に日本初上陸させるという奇跡。
しかも、「十二封信」の未来の舞台も、何故か2026年なんですよね。
これって本当に偶然なんでしょうか…
「十二通の手紙」の感想
時空を超えた手紙のやり取りに、謎めきと彩りを添えていた古ぼけた赤いポスト、一匹の猫、時刻、同じ便箋…
改めて視聴すると、1991年と2026年の赤いポストの異なる番号や、余志勇の便箋の調達先など、突っ込みたくなるところも多々あるのですが…
主カップルである尋棠カップルは、何度見てもサイコーの演技とケミ。
結末を知った上で観ると、沈程こと任宥綸(レン・ヨウルン)も、本当にいい表情をしているのがわかる。
なのに…
泣けるほど刺さらなかったのは、どうやら魔翻訳のせいでもなかったみたい。

3組の恋物語でもあったけれど、唯一胸を熱くさせたのは李査東と譚鑫カップル。
過去にも紆余曲折あった中で、結局別れを選んだふたり。
愛し合っているのに一緒にいることが許されない悲恋。
別れの決定も、どちらかの一方的な思いではないのが、またせつない。
ふたりの絆の強さを一層感じさせられました。
最近は90年代を描くドラマも多いけれど、日本でのほほんと青春を過ごしていた頃、中国はまだこんな時代だったんだなと。
劇的な日々を過ごした尋棠カップル、出会いから別れまでは、驚きのほんの1か月程度。
一度でも死ぬほど愛した経験があれば、その思い出だけで生きていけるが、うまく表現されているのに、泣けると評判の名シーンも、なぜか没入感がイマイチで…
「Love Letter」と比べ過ぎて観ていたせいか、ラストももう一捻り欲しかったのかも。
35年後の阿尋は、年齢の割にあまりにも老け過ぎた外見だったけど、10代から30代まで幅広い年齢を違和感なく演じたイーラン。
結局イーランの表情に見惚れ、イーラン再発見の嵐のまま終了しました。

さいごに…
初視聴後は、「Love Letter」オマージュであることに、ひそかに興奮していたけれど、再視聴で気付いた連想シーンは、「希望と喪失」「生と死」など相反するシーンばかり。
- 赤いポスト(中国は通常緑色)
- ありえない手紙
- 謎の老人
- 文面に嫉妬する男主
- 過去と未来のエピソードが交互に展開
- 光と音楽を駆使した映像美
再視聴での気づき
- 魂の叫び
- 雪原
実は「Love Letter」自体も、こういった非対称性が、あちこちに散りばめられているんですよね。

ちょっと話はズレますが、岩井俊二監督は同じ原作で、日中で題名の異なる「ラストレター(2020)」と「チィファの手紙(2018)」を撮っているのですが、日本版は夏が舞台で明るめ、中国版は冬が舞台で暗め。
「十二封信」もまた、1991年はまだ残暑の季節なのに、2026年は雪舞う冬が舞台。
これもまた偶然なのでしょうか。
影
- チィファの手紙(冬)
- 十二通の手紙(ダーク)
- 十二通の手紙(2026年 絶望)
光
- ラストレター(夏)
- Love Letter(ライト)
- 十二通の手紙(1991年 希望)
中国版のほうが暗めで、日本版とは「光と影」の関係にある気がするのは、「Love Letter」と「十二通の手紙」も一緒なのかもしれません。
考えてみると「十二通の手紙」は、光より影を生かした演出だったのかも。
天邪鬼でちょっと気まずい藤井樹と、命を擲つほどにまっすぐな唐亦尋も、全く正反対キャラですしね。
ああ、「十二封信」を再視聴したことで、「Love Letter」をより理解することができた気がします。
改めて「Love Letter30周年」「WOWOW35周年」万歳。
こんなどうでもいいところが気になっているから、本編が刺さらなかったんだな、きっと…
画像は公式サイト・SNSより
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