中国ドラマ「繁花」の感想です
新作が観られる嬉しさより、不安も大きかった「王家衛(以下カーウァイ)ドラマ撮影中」のニュース。
- 香港じゃなくて上海が舞台
- 映画じゃなくてドラマ
おいおい、いつクランクアップするの?
つーか、本当に完成するの?
ありがたいことに私の心配は杞憂に終わり、ブランクを感じさせない見事な仕上がりに感無量でした。
制作時から不安しかなかった「繁花(2023)」が、最高傑作になるまで。
撮影期間と日本上陸
映画でもあんなに撮影期間が長いのに、ドラマだなんて本当に完成するのか…
準備期間7年、撮影期間3年。
2020年にクランクイン。
2023年から2024年の年末年始に公開。
無事公開されただけでも嬉しく、日本ではやっとこさ2026年3月にWOWOWで初放送。
全30話、1日10話ずつ、3日間で放送しきるという鬼のようなスケジュール。
でも、イッキ見するのにふさわしい作品なんですよね。
ドラマという強み
「恋する惑星(1994)」を観ていた30年ほど前は、夢にも思わなかった。
まさか、カーウァイのドラマを観られる日がくるなんて…
「繁花」も当初は映画の予定だったよう。
コケたりしないのか
なんてアホな心配ばかりしていたけれど、やはりカーウァイは裏切りませんね。
- いつもの映像美に
- 男主はかっけー
- 女主は美しい
- 駆け引きは楽しい…
お馴染みのWKWワールドが全開で飛び込んで来るではありませんか。
ドラマならではの長尺のおかげで、主人公たちのバックグランドも丁寧に描かれている。
それだけで、かつてないほどわかりやすく仕上がっているから驚き。
煌びやかな夜の世界が舞台なのに、ヤニ臭くもなく、ノワール系もなし。
美術、衣装、俳優さん… ただただ息を呑む美しさ。
ゆえに、いつも以上にキャラ立ちも素晴らしい。
長い月日をかけて作り上げた甲斐ある満足度。
金宇澄の原作よりだいぶ美化されているようですが、プロット、台詞、音楽までプラスされ、カーウァイマジックにかけられるって、とっても光栄なことだと思うのですが…
広東語と上海語
「繁花」は、上海語でつくられた珍しい作品だそう。
これまでも、90年代の熱波を描き続けてきたカーウァイ。
カーウァイ作品を熱くさせるスパイス一つともいえる広東語なしで、らしさを発揮できるのか。
これまた余計なお世話で…
上海語は広東語と同じくらい熱を帯びた言語なんですね。
カーウァイが描くからだけでなく、街自体も驚くほど似ているように思えて…
キャンキャン騒がしい女主たちも、私にしてみれば、これぞカーウァイ。
顔値高めのイケメンにのぼせてる日常から、一気に「本物の中国」に引き戻されるような、妙な高揚感がたまらない。
「繁花」には、吹替の普通語バージョンもあるそうですが、WOWOWはしっかり上海語バージョンで放送。
長い撮影期間には、俳優さんたちの上海語の練習も含まれていたよう。
上海語ならではの熱い空気が、そのまま画面を通して伝わってきます。
カーウァイの愛は極上
カーウァイが描く愛って、どちらかというと悲恋が多いのに、何故か美しく余韻を残す…
恋をした時しか感じない、誰もが持つ心のくすぶり…
いたたまれないのに胸が躍る…
不思議な感覚。
人生で最初で最後の愛を、繊細かつダイナミックに描くカーウァイ。
本当に愛した人がひとりいれば生きて行ける…
「繁花」は、これまでにないほど、愛もわかりやすく描かれている。
貧しい青年から実業家へと上り詰める男主。
玲子と汪明珠、タイプの異なるふたりのデキ女を抱える理想のプレイボーイと思いきや…
初めは、どっちつかずで、煮え切らないヤツなのか…とも思ってしまったけれど…
女性に固執しないのは、自分のせいで誰かが不幸になるのが、とにかく許せないからなんですね。
早々に、阿宝の現在に恋バナは無しなことに気付いてしまったけれど、胡歌のたたずまいを眺めているだけでも胸が躍った。
格好よくスーツを着こなす姿は、まるで「花様年華(2000)」のチャウ。
散財してでも仲間を助けようとするする姿は、「今すぐ抱きしめたい(1988)」のアンディ。
華やかさに酔うことなく、またいつでも労働服を着れてしまうような、表裏一体の危うさ。
ゆえに、もしかしたら… と胸騒ぎしながら、マネーゲームも楽しめました。
来るもの拒まず、去るもの追わずと思いきや、梅萍だけは受け入れない頑固さも好きだった。
最後まで、自分のためではない、阿宝イムズが素敵だった。
上海生まれの胡歌が起用された理由がわかる気がしました。

≪ 阿宝 のLOVE≫
恋愛に関しては、雪芝ですべてを悟ってしまったような阿宝。
淡い恋にはじまり、長い年月を経てのせつないやりとり。
傷つきたくも傷つけたくもない、阿宝の気質の元となっているのでしょうね。
阿宝にとってマイホームのようなレストラン「夜東京」の店主。
女主3人の中で一番好きだったのが玲子。
阿宝と同じくらい情に厚く、生粋の姉御肌で経営者タイプ。
下町の女将といった感じなのに、手足を組んだり、いつも何かつまんでいる姿さえも、気品にあふれていて惚れ惚れ。
金銭にがめつく、恩着せがましさもあるけど、阿宝を繋ぎ止める常套手段というよりは、戯れのようなもの。
どんなことがあっても、自分の元に阿宝は帰って来てくれるという自信。
一方で、汪明珠のようにビジネスパートナーとしても力になりたい欲もあり…
ふたりの女性が阿宝に、見切りをつけるきっかけにもなった真珠事件。
玲子と汪明珠が、どれほど阿宝を愛しているかを証明する、物語の転機となる秀逸過ぎる演出。
本来の姿を取り戻し、才を開花させていく姿も圧巻でしたね。

≪ 玲子 のLOVE≫
自分で店を持つきっかけをくれた阿宝。
あんな粋な恩返しをされたら…
恩返し、やさしさ、好意…
こういう、あいまいな心理描写が本当に長けているカーワァイ。
自ら悟って、引き際を見極められる玲子は、本当にかっこよかった。
仮に強慕傑と一緒になったとしても、心の中には阿宝が居続けたでしょうね。
貿易会社で働く、阿宝のビジネスパートナー。
公私ともに情報を共有する玲子ほど、敵対心はなさそう。
阿宝を凌ぐほどに、恋も仕事も情熱的でまっすぐ。
人を恨むことなく、前進あるのみ。
はじめは、キャンキャン吠える子犬だったけれど、向こう見ずなところも、可愛らしく見えてきて。
強情過ぎないかと突っ込みたくもなったけれど、妥協せずに限界まで挑戦する姿にはアッパレ。

≪ 汪明珠 のLOVE≫
やっぱ同士として戦ってきた阿宝ですよね。
陰で支える玲子とは、愛し方以外もすべて対照的。
内に秘めていられず、だだ洩れてしまう阿宝への愛も可愛らしい。
白黒つけたい性格で、阿宝の諦め方も汪明珠らしかった。
運命という名のご縁、すれ違いを描くのもとても巧いカーウァイ。
仮に魏宏慶と一緒になったとしても、心の中には阿宝が居続けたでしょうね。
突如、黄河路にあらわれた高級レストラン「至真園」の店主。
ミステリアスな虎視眈々とした姿は、まるで女豹のよう。
一番人気があった女主ではないでしょうか。
徐々に明かされる闇が深すぎて、鎧のように纏うコートが痛々しかった。
すべてを知りながら、人の弱みに付け込む魏宏慶って、数少ない本当に嫌なヤツでしたね。

≪ 李李 のLOVE≫
壮絶な別れを経験したA先生ですよね。
阿宝にA先生と同じニオイを感じつつ、つかず離れずの距離を保ち続けた聡明さ。
期限付きで黄河路に来た時から、すべてを背負っている姿が、かっこよかった。
仮に阿宝と一緒になっても、A先生がチラつき、うまくはいかなかったでしょうね。
さいごに…
はじめましての俳優さんだらけで、ワクワク、ドキドキ。
観終わってしまえば、いくつもの不安要素がまるで嘘のような満足度。
今なおカーウァイ作品に魅せられるのは、舞台やジャンルは変われど、混沌とした90年代の浪漫を描き続ける根本は変わらないからなんでしょうね。
日本でも失いつつある、お馴染みの人情や仁義の世界も、いつも以上にキレイめな仕上り。
次のステップへと飛躍していく女性たち。
悲恋だけど希望ある、いつものカーウァイがわかりやすく詰まっていました。
皆、ハマリ役で、久々にいろんな意味でエエ作品を観させてもらった感じ。
きっと、ドラマは最初で最後なんだろうな…
画像は公式サイト・SNSからお借りしています
IromegaR








