名台詞や撮影秘話で振り返る『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』①
アン・パンソク×ソン・イェジン×チョン・ヘインという最高の組み合わせで生まれた「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」。
アン・パンソク監督が描こうとした「本当の恋愛」を、インタビューやメイキング映像を元に、私なりの解釈でまとめてみようと思います。
起:再会 第1話~第3話
3年ぶりにアメリカから帰国したジュニが、ジナと再会することからはじまる、物語の起承転結「起」にあたる1話~3話。
アン・パンソクならではの映像美とオールドミュージックに、1話からぐんぐん引き込まれます。
弟のような存在としか思っていないジナと、姉の親友に一目惚れし、好きな子にちょっかいを出す少年のような青年ジュニ。
悪ふざけの中に感じられるジュニのスマートさと、2人の親密さを感じさせるテンポのよいやり取りが心地良い序盤。
無邪気におちゃらけていた2人が、次第に惹かれ合っていく様が、丁寧に描かれています。
30代女性のリアルさも話題となった今作ですが、食事を重ねることで徐々に深まる関係は、よくある恋のはじまりそのもの。
ビール、焼酎、ワインと多様なアルコール演出もドラマのポイントとなっています。
第1話
ソン・イェジンは実年齢と同じごくフツーの未婚女性をリアルに演じるため、髪のセットもスタイリストに頼まず自分でしたそうで、通勤途中で髪を束ねるジナの姿も彼女のアイデア。
時代劇言葉でのやり取りが、仲の深さをうかがわせるジナ親友役チャン・ソヨン、すでに貫禄あるジナの母役キル・ヘヨン、ジナの職場上司や同僚など、アン・パンソク作品おなじみのキャストが続々と登場します。
私も一目惚れしたジナの父役オ・マンソクは、「一般人か?」と言われるほどだったとか。
ジナとジュニの再会
期待と同時に、大女優ソン・イェジン相手に大役をこなせるか、不安も大きかったチョン・ヘインですが、運動神経が良さそうな身のこなしで、颯爽と登場するジュニに一安心。
ブルース・ウィルスの歌声にのせ、一台のカメラで長回しするジナとジュニの再会シーンは、アン・パンソク作品の幕を開けを実感させるシーン。
ジュニがジナに恋した瞬間でもありますが、ジナという人というより、ジナの魂に惹かれた瞬間だったのかもしれません。
「언제 돌아왔어?」
いつ、戻ったの?
「당신이 잠든 사이에」
あなたが眠っている間に
ウィットに富んだ会話やワインランチでは大人びたジュニ。
さりげなく彼氏のふりをしたり、靴の履き替えを手伝ったりする姿には、男らしさ中に細やかな配慮ができる繊細さとやさしさがうかがえます。
悪ふざけしながらもジナに近づきたくてたまらないジュニと、弟としか見ていないジナのやりとりが、微笑ましくも絶妙なはじまりです。
今後も2人がよくランチすることになる、ワインランチのお店のBGMが、レイチェル・ヤマガタの「Something In The Rain」なのもお洒落な演出です。
第2話
ジュニのジナへのアタックが本格化する2話。
元カレに対し煮えきらないジナと、そんなジナに始終イライラする嫉妬心を隠しきれないジュニが、とにかく可愛くて微笑ましい。
ジナの残業ダンス
缶ビール片手に踊りまくるジナは、やりきれない職場環境で働く世の女性たちのリアル。
残業中のオフィスをクラブ化させたのは、2NE1の「I AM THE BEST」。
ノリノリの「내가 제일 잘 나가~(私が一番イケてる)」も心憎い選曲です…
そんなジナを少し首を傾げながら見つめるジュニ。
劇中よく見られるジュニのキュンとするしぐさの一つですが、嬉しかったり、戸惑ったりする時に自然としているようで、メイキングを見てチョン・ヘイン自身もはじめて気付いたクセなんだそう。
「왜 안받어!」
なんで、電話に出ない!
大声も素敵なジュニとおののくジナが絶妙。
今後も「어머!어머!」と驚くジナに度々遭遇しますが、ソン・イェジンはこういう演技がホントに愛くるしくてお上手です。
大女優の貴重なダンスも印象的ですが、韓国の女優俳優さんたちってホント多才ですよね。
手際もよく、憎まれ口も絶好調のデキ男ジュニ。
鬼ごっことかくれんぼが、幼いころからの親しさを物語り、今後どのように恋に発展していくのかを期待させる、ワクワクシーンでもあります。
焼酎デート
仕事に恋にお疲れのジナと、嫉妬心が隠せずちょっと険悪ムードの焼酎デートで、思わず漏れるジュニの本音。
「누나가 더 예뻐」
ヌナのほうが綺麗だ
デキ男ジュニ演じる育ちもよいチョン・ヘインが、意外にもしっかり箸が持てないものには驚き。
そこがまた母性本能をくすぐる胸キュンポイントでもあるのですが…
はじめての食事は爽やかにビールで乾杯し、はじめてのランチはワインでお洒落に日常から逸脱、そして苛立つ2人のストレスや慰めには焼酎と、アルコールでも見せる演出。
このお店のBGMも「Something In The Rain」がしっとり流れていました。
この撮影当日はバレンタインだったようで、チョン・ヘインがソン・イェジンに傘をプレゼントしています。
雨に濡れると桜の花が浮かび上がる、綺麗なお姉さんにぴったりな素敵な傘のようです。
赤い傘での散歩
赤い傘をさしながら、歩調を合わせて酔い冷ましするジュニとジナ。
英題「Something In The Rain」通り、アン・パンソクの技法が生かされ、ポスターにも起用されたドラマを象徴するようなシーン。
雨の日をこんなにも軽快でロマンチックに演出できるなんて、素敵過ぎます。
カーラ・ブルーニの「Stand By Your Man」が、相合い傘で嬉しそうなジュニを一層盛り立てます。
赤い傘にジナを招き入れる時にも首を傾げるクセが。
ジナの一言一言をいちいち茶化すジュニも可愛すぎ。
甘さの中にもユーモアを忘れない演出がたまりません。
「주말에 영화나 보러 갈까?」
週末映画を見に行こう
次のステップに進みたいジュニの思いがあふれる一言。
楽しそうに歩く2人ですが、チョン・ヘインは撮影中、ソン・イェジンとの会話がホントに楽しかったようです。
兄弟のように育った、ジナの弟スンホとジュニの友情も見どころの一つ。
イマドキの男子らしく「서른다섯?!(35歳)」と好きな女について語る2人の会話も楽しい。
そんな2人が向かった先は、ジナの元カレギュミンが招かれているユン家。
ちゃっかり彼氏ヅラで居座る元カレに激情するジュニ。
「그 손 놔!!」
その手を放せ
うつむいた後に1人の男として顔が豹変し、元カレのネクタイを引っ張り連れ出す姿にドキドキ。
第3話
誤解を解こうとするジナと、嫉妬心を爆発させてキツイ言葉かけてしまうジュニ。
そんなジュニが、次第に気になっていくジナ。
お互いに惹かれあっていく様をたっぷり時間をかけて描かれる3話。
家の外に連れ出したジナの元カレに高揚するジュニ。
「죽고 싶냐?」
死にたいのか?
驚きを隠せないジナの弟スンホ。
大人っぽい年下男子たちがジナをさらに幼く感じさせると同時に、イケメン2人に守られているジナが羨ましい。
皆にあきれ返られるジナですが、ホントの問題児はジナの元カレギュミン。
そんな男を好きだったジナの問題と言われたらそれまでなのですが、このストーカー時代、意外にもジュニよりも現実味がある男だったりして。
ギュミンを演じるオ・リュンは、はじめて見る役者さんと思いきや、「妻の品格」「風の便りに聞きましたけど!?」などアン・パンソク作品のおなじみさんのようです。
今後も問題を起こしてくれますが、ジナとジュニの愛を一層深くさせる立役者。
ジナとのやり取りも笑えるくらいのハマリ度、二枚目を演じる姿も見てみたいと思わせる俳優さんです。
夜な夜なデート
売り言葉に買い言葉、お互いに素直になれず諍い気味になってしまう2人。
長いやりとりの中、黒スーツ姿のジュニに妙に引き込まれるシーン。
「スーツ姿が楽」というチョン・ヘインだけに、説教していても妙に色っぽく見えたのは私だけでしょうか。
部屋着姿のジナはより幼く、こなれたスーツ姿のジュニは一層大人っぽく、ファッションのギャップで見せる演出もさすがです。
「진짜 웃긴다!정말 웃긴다!」
笑わせてくれるわね
興奮すると出るジナの口癖ですが、一方的に腹を立てているジナも愛らしい。
家の前まで見送リながらも、ロック解除させまいとドアロック前に立ちはだかるジュニ。
「안 들어가면 안 돼?」
帰らないとダメ?
ドアロック前に立って何とかジナをつなぎ止めたい姿は、チョン・ヘインのアイデアなんだそう。
約束通り映画デートを楽しんだ後、公園でジナをスケッチするジュニ。
スケッチに対して文句を言うジナに対し
「누나, 작고 귀엽잖아」
ヌナは小さくて可愛いじゃない
思わずもらしてしまったジュニの心の声に、満更でもないジナ。
叱られながらも、ふざけ合い、遊んでくれ、しまいには褒めてくれる、こんなに干渉してくる男子が気にならないわけがない。
この日のジュニの強い押しは、ジナの心に変化をもたらします。
赤い傘を捨てられることに異常に執着したり、鉛筆がうまく持てないジュニも胸キュンポイント。
お迎えデート
本社ではなく、加盟店に出勤することになるジナ。
そんなジナを車で送迎することを買って出るジュニ。
しかし、帰りに夕食を共にしても肝心なことが言えないジュニ。
「누나 …혹시… 나… 내일 밥 사달라면 사주나…?」
ヌナ… もし… 明日もおごってと言ったらおごってくれる?
並んで歩いても肩も組めず、車内でも手も握れない…。
ジナだけでなく、見ているコチラももどかしく感じてしまうあるある。
音楽と共に流れるハラハラドキドキの時間も、アン・パンソクならではの演出。
ジナの告白
2人で食事するつもりが、お互いの職場仲間と飲み会することに。
好きな女性について集中攻撃を受け、しどろもどろになるジュニ。
モテ男のジュニがここまで動揺したのは、ジナの前だったからなのでしょうか。
「아직 그런거…」
今はまだ…
テーブル下で突然ジナが手を握る告白シーンは、ドラマの中でも印象に残る名シーンです。
言葉でもキスでもなく、こっそり手を握るというハラハラドキドキ感が、とっても粋な演出です。
ドキドキしながらカメラの位置も気にせずに撮ったというチョン・ヘイン。
お酒を飲むシーンは、すべて本物のアルコールを飲んで撮影されたとのことですが、お酒と緊張で赤ら顔のジュニがとってもリアルです。
「しゃっくりを1回ずつする」という台本だったそうですが、ジュニが手を握り返すというひと動作が加わることで、さらなる盛り上がりをみせています。
瓶ビール片手にという演出もお洒落ですよね。
友人スンチョルの野次じみた合いの手も絶妙、皮肉にもジュニに思いを寄せるカン代理の言動が、ジナを後押しすることになるという設定も、シーンに彩りを添えています。